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クスニューの森 Ⅵ

Auteur: エチカ
last update Date de publication: 2026-05-15 20:15:47

「な、何が……」

「お前は此処で足を滑らせる」

「は?」

「知っているか? 下賎の者。危険区域に入って戻らなかった者など、そう珍しくはない」

 嘘だろ⁉ この坊ちゃん。

 加減ってものを知らないのか。

 それとも、妹の為に“噂のお気に入り”が邪魔なのか。

 ただ、この森に入って戻らなかった者が居るのは確かだ。

 拙い。状況が拙すぎる。

 このまま湖に突き落とされでもしたら――――。

「あの……」

「それとも、オレが本当に不能になったかどうかお前で試してやろうか」

「は?」

「そうだな、それが良い。どうせ公爵様とヤリまくってんだろう?」

 そう言ってファージは掴みかかって来る。

 オルタナは反射的に身を引いたが、間に合わなかった。

 地面に押し倒されて、抜け出そうと藻掻いているオルタナの首筋にファージは舌を這わせる

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  • 魔女ドーラの孫(仮)   第二の審判

    「第二の審判……?」「オルタナ、私は君を高く評価しているのですよ。不遇な子供時代を経てサリバン公爵の番にまで上り詰めて来た。妊娠出来ないと言う欠陥が実に惜しい」「完璧ではないから殺そうと言うのですか?」「まさか。我々の最終的な目的はアルバを王に即位させ、新しい王政を布いてモリガンで夜葡萄を再生する事。お前がいてもいなくてもそれは実行される。夜葡萄の再生に必要な原初のΩの血はここにありますし、発情しないお前の血は役に立ちません。種もしかるべき所で厳重に保管していますから、お前の生死は正直問いません」 そう言ったケルメスは懐から出した香水瓶の様な物に入った血液らしき物を翳して見せた。 赤黒いそれを愛おし気に眺めたケルメスは「お前の母の血です」と笑う。 ゾッと背筋に震えが走った。 固まっていない所を見れば、何かしら混ぜてあるのかもしれない。「新しい国では神に愛された者だけの世界を創ろうと思っているのです。弱く不完全な者は先に排除し、強く賢い種だけを育てていく。植物だってそうやって間引くでしょう? より良い実を実らせる為の審判ですから、君だけではありません。あの口の達者な小娘にも第二の審判は用意してありますから、精々頑張って下さい」 ケルメスは「これはサリバン公爵への審判とも言えます」と喉を鳴らして不敵に笑った。「ではアルバ、私は大公妃の元へ戻ります」「うん」「いつもの様に、お前の好きにして良いですから」「分かった」 何の事か分からないアルバとの短い会話を終えたケルメスは、上座に据えられた女神像の足元へと歩いて行き、その土台に当たる部分を踏み抜いた。 ボコッと言う鈍い音が鳴り響き、シューっと何かが吹き出る。 煙の様なその白い気体が何なのか、ここからでは全く分からない。 走るか? いや、無理か? ケルメスがこの部屋を出る瞬間を狙って、扉が開いた瞬間にケルメスだけならどうにか出来るかもしれない。

  • 魔女ドーラの孫(仮)   傾いた天秤

     ケルメスはその青年をアルバと呼んだ。「種は違いますが、彼が同じ胎から生まれた兄ですよ」 アルバと呼ばれたその青年は、物珍しい物を見る様にこっちを見ている。「へぇ……全然似てない。あ、でも耳飾りは似てる」「彼は母親にそっくりですよ。耳飾りはレプリカでしょう」「母さんの事、全然覚えてないや」「お前が生まれて間もなく死にましたから、覚えていなくて当り前です」 そう言ったケルメスは、気持ち悪い程の笑みを見せる。 オルタナは今の状況を理解しようと必死に頭を回していたが、考える事を放棄したい感情が邪魔で上手く思考出来ない。 ただ、アルバはケルメスを“叔父上”と呼んだ。 母を愛妾として囲っていたのはケルメスだと思っていたが、ケルメスは彼の父親ではない。 それが何を意味するのか。 アルバの父親が誰なのか、誰が母を孕ませたのか――。 考えなければならない事がただ溢れてきてしまう。「驚いているようですね、オルタナ」「……そうですね」「彼はアルバと言います。正真正銘、彼はエヴレカの子であり君の弟です」「父親は誰なのですか?」「私が父親だと思いましたか? 残念ながら私は生まれて間もなく去勢されましてね。そう言った事は出来ない体です」 去勢――? この国で去勢が行われていたのはもう随分昔の事だと聞いている。 信じ難い発言だったが、今はそれどころではない。「アルバを見れば分かるでしょう? 見覚えのある顔なのでは?」 オルタナは一番気付きたくない事に、気付いてしまった。 彼がこの祈りの間に入って来た時に感じた既視感――それは、公爵に似ていると言う事だ。

  • 魔女ドーラの孫(仮)   潜入班

     大聖堂へと連れて行かれるオルタナ達を馬車に乗せ、ケルメスはそちらへ付かせる護衛達に何か指示を出している様だった。 ノチホド ソチラニ ムカイマス ? ケルメスの唇を読みながらアラベルとオブライアンは顔を見合わせる。 潜入できたは良いがまだ何の証拠も手に入れられていない。 公爵から言われているのは種芥子に関する証拠とラカンとの繋がりに関する証拠を押さえる事。 だがこの爺はアステール河を視察すると言う大公妃の最初の目的を果たした後、すぐにオルタナ達を別行動させるつもりらしい。 もう少し一緒に動ける見込みだった所を、早々に窮地に追い込まれてしまった。 王妃とオルタナの安否が分からない状態では、動き辛い事この上ない。 ケルメスは大公妃と大人の話をする為に礼拝堂に行くつもりらしいが、多分そこにはこちらが欲しい情報は何もないだろう。 兎に角、この爺を引き離さなければ動きようがない。「なぁにしてんだい、あんた達」 ひっそりとそう声を掛けて来たのはドーラだった。「……何で分かんだよ」 アラベルは周りに聞こえない様に声を落としてそう答えた。「見りゃ分るわ。私を誰だと思ってんだい」「って言うか、バレちゃいけねぇヤツだわ」「あの爺の脳みそは鳥の糞だからね。気付いちゃいないだろうさ」 相変わらず口が悪い。「そっちのも、えらく懐かしい顔じゃないか」 ドーラは変装しているはずのオブライアンにそう問いかけた。「久しいですね。オピ」「まだ引退してなかったのかい、オブ」「……知り合いなのかよ」「「同胞だ」」 そう言われてアラベルは、あぁなるほど、と納得した。 βの癖に何でも出来ると噂の元王妃の専

  • 魔女ドーラの孫(仮)   新しい王

    「おや、王妃様。貴女もラカン進軍の伝令をお聞きになったでしょう? ケルメス様はラカン進軍を予期されていました。敵襲さえ予期出来ぬ王など、民を危険に晒すだけ。民がどちらを支持するかなど、聞かずとも分かる事でございましょう」 良く喋る。  これは重畳。 オルタナは昂る王妃をもう一度庇う様に、一歩前へと進み出る。「それを僕達に聞かせると言う事は、ここから出す気がないと言う事でしょうか?」「ははっ、出た所で王陛下や特警はモリガンから生きては戻らぬでしょう」「どういう意味です?」「言葉通りですよ。でも心配はいりません。すぐに新しい王がこの国を正しく導いてくれます」 そう言って喋る護衛は覆面の下で卑下た笑い声を吐く。 新しい王――? ケルメスは現王を殺して自分が王位に就くつもりなのか? ここまで来るとこの五人の中にアラベルもオブライアンもいないと考えた方が良いだろう。 やっぱり王妃だけでも逃がすべきだったのか。 逃げる選択をしなかった事が、最悪の結果を招いているように思えた。 次の言葉を探していると、また地鳴りのような音が聞こえて来る。 入って来た石戸の絡繰りが動いている音だ。「あぁ、来られたようです」 喋る護衛の視線が、入口へと向けられた。 ゆっくりと開いた扉の向こうには、ケルメスと若くて体格のいい黒髪の青年が立っている。 誰だ?  何だか、その青年に既視感を覚える――。 そしてオルタナは彼を見て思い当たり、思考が一時停止した。 護衛達はその黒髪の青年に片膝をついて首を垂れ、礼を尽くす。「ダリス、王妃様を連れて出なさい」「え?」「この部屋にその子供は必要ありません」

  • 魔女ドーラの孫(仮)   大聖堂

     ゴトリと大きな音を立てて馬車が止まる。 護衛の一人が扉を開けて降りる様促された。「ここはどこ? 大聖堂へ行くのではなかったの?」 王妃のその問いに、誰も答えようとしない。 顔の見えない護衛達に取り囲まれて、オルタナは思考をフル回転させた。 マズい。  このまま行くと背後に見えている滝壺へと転落させられるか、斬り捨てられた所で誰にも助けて貰えずに息絶えて死ぬだろう。「どういう事ですか? 大司教様は大聖堂へお連れしろと……」 ダリスも同じ様に焦っている様だった。「こちらから大聖堂へ入って頂きます」 護衛の一人が初めて喋った。 彼が差した指の先には、洞に扉を付けた様な入り口が見えている。 正面から入らない所がもう既に怪しい。  だが、ここで暴れたり隙を作って逃げても、こちらはΩが二人もいる上に王妃はドレスを着ている。 走って逃げるにも限界があるし、唯一αであるダリスはまだ杖を突いていて宛てにはならない。 オルタナは苦し紛れに公爵邸を出る時に持たされたハンカチを、護衛に見つからない様に叢へと落とした。 運が良ければ誰かに見つけて貰えるかもしれない。「行こう、ラティ」「オルティ?」「今ここで逃げても成功率は低い」「……分かったわ」「ダリス」「はい」「君の優先順位は僕じゃなくてラチア様だ。絶対、それだけは違えないで」「……かしこまりました」 ナタリスは“サリバン公爵の番”は、公爵との交渉材料になると言っていた。 なら、自分が殺される確率はほんの僅かだが王妃より低く見積もっても良いだろう。 それに、ケルメスは夜会で王陛下に王妃に何かあれば責を負うのはお前だと釘を刺されていた。 殺そうとするだろうか?

  • 魔女ドーラの孫(仮)   人間を辞めた犬

    「その節は、大変ご無礼を……」「ファージ様……」「ナタリス様、及びサリバン公爵の命で数日前よりこちらに」「そ、そうでしたか……」「お前が人間辞めた方ね」「はい、王妃様。私めの事は犬とでも思って頂ければ……」 あの口が悪くて激情家だったダリス・ファージがまるで別人の様だった。 平民平民と見下していたのに、遜って喋る様は違和感しかない。「良いわ。お前の事は許さないけど、お前の飼い主は信用に値する。でも、私の友をもう一度傷つけたら、今度は私が死ぬより辛い罰を与えてあげるわ」 さっきまで王陛下のモリガン進軍の話で心ここに非ずだった王妃が、いつもの調子に戻っていた。「御意」「ラティ……僕はもう、気にしてないよ。ファージ様もナタリス様に色々とお仕置き? されたみたいだし……」「いいえ、オルティが良くても私が許さないわ! αだからと言ってΩを組み敷いて蔑むなんて、人間辞めさせられて当然なんだから!」「ちょ、落ち着いて……ラティ……」 クスニューの森でのダリスを知っているオルタナからしてみたら、覇気のない自分を犬だと言うダリスが可哀想に見えていた。 ナタリスに何をされたかは知らないが、あの短時間でこの従順さと言うのは信じ難い姿でもある。「他の潜入班の人達も、無事に入れたのかな……?」「オルタナ様、お気付きではなかったのですか? さっきのあの場に全員揃っていましたが……」「えっ? さっきって、あの河岸に?」「はい。あぁ、でも一人赤毛の彼だけは、別行動しているはずです」「そうなんだ……」 と言う事はあの覆面を被った護衛の中に、アラベルとオブライアンがいると言う事になる。 もしかしたら付いて来ている五人の中に、どちらかがいるのかもしれない。「これから行く大聖堂では“神の宴”が行われる他、ドラコン

  • 魔女ドーラの孫(仮)   アウルム地方 Ⅰ

     アウルム地方にあるサリバン公爵家の別荘へ来て一週間が過ぎようとしていた。 気候の良いアウルムではもう、雪の残る所はなく、芽吹いた若い緑が眩しい程だ。 オルタナの為に用意された特別な部屋とは、薬草に関する書籍や古文書が所狭しと並ぶ一室だった。 拘束も解かれその部屋を私室として与えられ、普通に暮らしていた。 そう、普通だ。「いや、おかしいだろ……」 目が覚めていつも思う。 ここで何をしているのだろうか?

  • 魔女ドーラの孫(仮)   モリガン区 Ⅴ

    「モリガン大佐に頼まれていたのは、ただの香辛料で……」「それが、悪用されたようだ」「あ、くよ……う?」「適量を守ればただの香辛料も、摂取量を間違えれば毒になる。彼らが死ぬ前に飲んだ酒には大量の香辛料が混入されていた」「ま、さか……大佐が……? 嘘だ……」「まだ、真相は分からん。だが、こんな分かりやすい方法で六人も害したとなれば、お前は犯人に仕立てられたんだろうよ」

  • 魔女ドーラの孫(仮)   モリガン区 Ⅳ

     祖母は顔の上半分が薬草に被れて、まるで火傷の痕の様に爛れている。 その見た目から祖母は魔女ドーラと揶揄されていた。「あぁ、いや違う。気を悪くするな。彼女は栗毛で肌も小麦の様だった。お前は銀髪に白い肌をしているから、こんなに違うものかと……」「そ、祖母に会ったことがあるんですかっ?」「あぁ、一度だけ。モリガン伯が薬物兵器を研究していた者を監禁していると聞いて、見に行った」「そう、ですか……」

  • 魔女ドーラの孫(仮)   モリガン区 Ⅲ

     今からでも逃げるか……いや、無理だ。 少なくともローブの男と大柄なノエルと呼ばれていた男は間違いなくαだろう。 ミレーと呼ばれていたもう一人は女性だったが、纏う雰囲気がもう凡人のそれではない。 間違いない、全員αだ。 詰んだ。 でも、どこかで逃げなければ、このまま監獄にでも入れられたら、本当に人生が詰む。 ドーン王国では魔女狩りと称して薬師が大量に殺された時代があった。 当時の王が薬師に王妃を殺されたとして、国中の薬師を虐殺したのがキッカケだったとか。 そのせいでドーン王国は他国に比べ薬学が廃れて久しい。 現王レイモンドは積極的に他国からの薬も輸入し、自国の薬師を増やす政

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